翌日。
あたしは山になっている荷物たちを、引っ越し業者のトラックに運んでもらった重い荷物に、収納する。

「めんどくさい」

あたしは荷物の山、きっと服だと思う、柔らかい荷物にダイブする。

「こらこら、美月」

「…あ、翔太くん」

あたしは声のする方を寝ながらチラリと見てみると、翔太くんがいた。

…“美月”。

翔太くんが微笑みながらあたしの名前を呼ぶ。
相変わらず、誰もが見とれるほどの、かっこよさ。
男の子らしい、って言うより、綺麗に筋肉がついているようだった。

だけど…。

馴れ馴れし。
あたし、認めてないんだからね!?
アンタのこと。
“翔太くん”なんて本当は呼びたくなんかないんだし。
アンタなんかに名前で呼んでもらいたくなんて―――




『美月ちゃん』





「――っ」

ふと、耳に響いた……、“彼”の声。
その、透き通るような綺麗な声が、あたしの薄い鼓膜を震わせる。
あたしは敏感に身体に神経を走らせ、起き上がる。

“彼”とは。

初めて逢ったのに。
ただ、初めて声を聞いただけで。
どんな感情だって、持っていない。

それなのに…どうして。


あたしの頭は“彼”でいっぱいになる。


あたしは虚ろな目で、障子の隙間から見える庭を遠い目で見た。

「……遥…」

たっぷりの吐息に紛れた人の名前。
なぜだか、その名はあたしの心をほぐしてくれるような、そんな風に感じる。

「…何?どうしたの?」

翔太くんがあたしの顔を除き込む。
あたしは翔太くんの目を見てからすぐにそらし、顔を俯く。

顔が火照る。
あたしを除き込む翔太くんのせいじゃない。
そう、あたしの脳内を支配した“遥”のせい。
身体の芯から熱が引き出され、その熱に耐えきれなくなったあたしの脳が、何も色を付けない“純白”に染まる。

あたしは口を、左手の甲で隠して、その状況を翔太くんにバレないように隠す。

そんなあたしを見て呆れたのか、翔太くんは深く溜め息をつき、あたしの頭をソッと撫でた。

「…荷物、整理しよっか」

そう言って“彼”は荷物へ手を伸ばした。



胸が苦しい。
肌が痛いくらいに熱い。
頭が混乱すぐにかる。


これって…。



ま、いっか。


あたしは翔太くんに続いて、荷物を整理していった。