和やかな食卓。
暖かな電気を灯し、炬燵で暖まりながら食事をとる。
外は闇で満ちていた。

「美月ちゃん、元気ないわね」

夏希さんが優しい声であたしに問い掛ける。
だけどあたしは。

「いえ。大丈夫です」

作り笑いで誤魔化した。
夏希さんに続いて、父、母もあたしに心配の声を掛けた。

「大丈夫かー、美月」

「夜更かしでもした?」

だがあたしは作り笑いでまた誤魔化す。

どうやらあたしは箸をあまり動かしてなかったらしい。
常に放心状態なのだった。

心配する三人に対し、翔太くんは。

「みんな心配し過ぎだよ」

と、不機嫌そうに言葉を吐いていた。
それを見て顔色を変えたのは―――達大さんだった。





―――…




食事を終え、あたしは食器を台所に持って行き手を洗い、口をゆすいだ。
すると背後から達大さんの小さな声が聞こえ、あたしはその言葉に頷いた。



『美月ちゃん、このあと僕の部屋にちょっと来てね』



あたしはその言葉の通り、居間を出て達大さんの部屋へと向かった。

さすがに縁側は開いてなく閉まっていて、寒さをしのいでいた。
だが廊下は冷たく、身体を震わせた。


「失礼します」

「どうぞ」


あたしは障子を開け、優しく閉めて、達大さんが招くところに座り込んだ。
達大さんは急に凛とした顔付きになった。


「…何があったんだい?」


単刀直入の言葉だった。
だがあたしは迷いなく、達大さんに言った。

「…翔太くんに、知られてしまいました。それで…」

「それで翔太は不機嫌なんだね?」

「はい…、きっと」


あたしは目を伏せた。
見えるのは膝の上にある拳が二つ。
あたしの手は悔しさと悲しさで震えていた。


「君は、どうしたい?」

「え…?」


あたしはあまりにも和やかな達大さんの反応に、少し驚いた。


「だって今、…翔太があれなら…、遥くんと会えないんでしょ?寂しくないの?」

「そりゃあ…寂しいです。会いたくて、逢いたくて仕方がないです…」

あたしの声は少し震えていた。

「なら…」

あたしの頭に達大さんの大きくて温かくて優しくて愛情がたくさん詰まった手が、包み込んだ。





「…なら、会いに行けばいい」