「うっ、寒ーい…」

玄関の扉を開けると強い風が髪を靡かせる。
さすがに11月だな、なんて関心する。
それから歩き水城神社の前の石段を上がる。

ヒュルルと風が音を立てる。
だがあたしは黒いタイツを履いているからまぁ、温かかった。
スカートがめくれないように手で押さえ、石段を登りきった。


そしてあたしは一目散に遥を探す。
だが、遥は見当たらない。
踊り場、参道、木の影。
いつもならいる場所に遥はいなかった。

「…うーん…」

あたしは参道を少しだけ歩きまた止まり、踊り場のところを見つめた。

「やっぱり、いないなー…」

あたしは少し諦めかけていた。
その時。
何かが後ろからあたしの目を覆い隠し視界は真っ暗になる。


「ぎぁーー!!なっ、何ぃ!?」

「…」

「ちょっ、離しっ……!?」

あたしがもがいていると、視界がパッと明るくなった。
目の前に写るのは水城神社の踊り場。
あたしは咄嗟に後ろを向く。
向いた先には愛しい人。


「遥…!」


相変わらず遥は綺麗な顔で笑顔を作っていた。
見とれてしまう程整った顔に綺麗な肌と艶やかな黒い髪。
細身だけど男らしい身体で笑顔がとても爽やかでかっこいい。
女のあたしでさえ憎みたくなる程に容姿は完璧なのだ。

だが……。


「美月ちゃんの反応、クセになっちゃうよ」

「なっ!!」


中身は変態。
あたしの間抜けな姿や怒る姿、泣きそうな姿や恥ずかしがっている姿を見て愉しがっているのだ。
まさに“悪趣味”といったところだろうか。


「今日は何して遊ぶ?鬼ごっこ?木登り?あ、美月ちゃんは口付けがいいかなー?それとも…―――」

「あっ、遊びじゃないから!」


怪しげに笑う遥はどこか愉しそうに見えた。
あたしは少しだけ緊張をするがそれを抑え遥を睨んだ。
遥は「冗談だよ」と笑う。


「…冗談、か…。なんだ…」


あたしは思わず本音を口に出してしまった。
だけど修正しようだなんて思ってもいない。
だってこれがあたしの本当の気持ちだから。


「本当、調子が狂いますね」

「元からでしょう?」

「…言いますねぇ…!!」

遥はあたしにガバッと抱き着き、なんとあたしを抱き抱え、歩き出した。

「うわっ、ちょっと…下ろし――」

「無理」


そう言って踊り場まで抱っこされてしまった。