あたしは遥の胸から起き上がり、真っ正面で遥を見た。

「だっ、だめだって!!」

「…どうして」

遥の漆黒の瞳がギロリとあたしを捕まえる。
まるで狼に狙われたリスのよう。

「…そっ…それは…」

あまりの恥ずかしさに顔を俯く。
すると、遥の大きく白くて綺麗な手がワンピースの中に入りあたしの太ももを撫でた。

「ひゃあっ!!!」

「スベスベだー」

「そ、そうじゃない!!!」


あたしは遥の手を乱暴に叩き、ワンピースの中から出した。
遥は相変わらずニコニコしていて反省も何もない。

「も…やめてよ……ばか」

あたしは俯き、ボソッと呟くと遥は優しくあたしの頬を両手で包み込むと呟いた。

「…そうやって、いつも俺にだけ赤い顔を見せていればいい」

「へ…?」


あたしと遥の距離は一気に近くなる。


「…そのくらい俺は君を欲しているんだよ、美月」



あたしは熱帯びた頬に涙を一粒流した。
よくわからないが嬉しかったから。

こんなに愛する人から自分を求められて。
自分の居場所、存在理由があるということが嬉しくてたまらなかったのだ。


だけど切なくて。
胸がキューっと締め付けられて苦しい。

なぜだかわからない。

嬉しいはずなのに、悲しくて辛くて、涙が溢れて止まらない。


「…美月?」

「…っ、お願い…」


頬を包む遥の両手に自分の両手を重ねた。


「…んっ…どこにも、行かないでね…っ、絶対に…離さないでねっ……」


涙で歪む視界の中であたしは遥を見ながらそう言った。


「…うん」



そう言ってまた重なる唇。


―――その時、遥はどんな顔をしていたのかな。

歪んでよく見えない遥の表情。
あたしには見えない遥の表情。


あたしは気付いていなかった。

遥はこの時、笑ってなんかいなかった。

悲しみに満ちた瞳をして、悔しそうに歯を食い縛り―――





―――涙を流していたなんて。