あたしも出来れば帰らないで遥といたい。
たくさん話して、笑って、触れていたい。

だけど。

「…明日、会おう?」

「…っ」

あたしは頬を赤らめ、そう遥に言った。
遥は少し寂しげな顔をして「そうですね」と言う。
そんな遥を見ていたら抑えきれない何かがあたしを駆け巡った。
あたしは少し背伸びをして、自ら自分の唇を遥の唇に重ねた。

短いけれどあたしは自分自身、満足していた。
遥は驚いたような顔をし、微笑んだ。


「…下手くそ」

「なっ!!!」


あたしの顔は真っ赤に燃えた。
遥はあははと笑い握った手を離した。
そして耳元で囁く。

「……明日口付けの仕方を指導しなくては、ね?」

「っ!!!」


遥の甘い声と熱い吐息を間近で感じ、身が震える。
そして直ぐ冷めきる耳元。

「それでは、また明日」

遥は荷物をあたしに手渡すと笑顔で別れを告げ方向転換し歩いて行った。

「ばいばい……」

あたしは遥の背中を見ながら消えそうな声で呟いた。

「美月ちゃん?」

背後から声がした。
振り返るとそこには達大さんの姿。
笑顔であたしに近寄り荷物を取った。

「あっ」

「いいよ、お帰り」

優しい声で達大さんは言った。
そしてあたしに背を向け歩き出す。
だがあたしは少し焦っていた。
遥といた現場を目撃されたのかと思ったから。
けれど―――思っただけでは無かった。
達大さんにはバレていたのだ。

「さっきのが…好きな人とやらかな?」

「…」

少し鋭い目であたしを捕らえた達大さん。
あたしはその目に逆らえもせず。

「…わかったんですね」

誠実に言うだけ。
あたしは立ち止まり俯く。
それに合わせ、達大さんもあたしの方を向き口を結ぶ。

「…だけど、片想いは辛いです」

あたしは無理に笑顔を作り、達大さんに向けた。
口元がひきつって上手く笑えない。
こんなに笑うのが辛いのは初めてなのだ。


「片想いなんかには見えなかったよ」

そう言って達大さんは優しい瞳をして笑った。