お、男の子!?

あたしは一歩、後ろへ足を戻す。
するとパキッと足元で音がした。
木の枝を踏んだらしい。

ヤバい。
バレちゃうかな!?
ん…?バレる?
いや、バレるとかじゃなくて、この人が寝てるのが悪くて…。

「誰」

「!?」

あたしはハッとして男の子に視線を移した。
男の子は寝起きのように目を半開きにしてあたしを見た。

ど、どうしよう…。

「ご、ごめんなさい!あたしは、その…怪しい者じゃないっていうか…怪しいけど怪しくないっていうか…。あれ?あたしって怪しい!?…ッハ!!いや、違っ…その…」

あたしはどうしようもなく、混乱していて、うまく話せない。
男の子は大あくびをしていて、目をこすりながら、確かに笑っていた。

は、恥ずかしい。

あたしは一度、深呼吸をしてから抗議した。

「……気持ち良く寝ていたのに、ごめんなさい。…お邪魔っ…しました…」

あたしは進行方向を変えて、歩き出した。

「“新しい家”に帰るか」と思い、あたしは足を前に進めた。



が。






「待って」







ドックン。


歩くあたしは男の子に呼び止められた。
あたしは立ち止まってしまった。
ううん。
違う。
立ち止まってしまったというより、身体が男の子の声に従ったようだった。

なんだろう。
この気持ち。
さっきと、同じ。
身体の奥底から熱が引き出されて、あたしの鼓動を打ち付ける。

「ねぇ」


ドックン。

また跳ねる、鼓動。
その鼓動の強さにあたしは息の仕方を忘れてしまう。

透き通るような綺麗な声。
そんな綺麗な声があたしの事を呼んでるの?

あたしは、振り向く。
すると男の子は踊り場のところを降りていて、あたしの目の前にいた。
男の子は目を細めて柔らかく笑う。

「やっと気付いてくれた」

「…」

あたしはそのお日さまみたいな男の子の笑顔に見とれて、出る言葉も出なかった。

「ここになんのよう?」

男の子はニコニコ笑い、あたしに問いかける。

「…ただ、通り掛かっただけで」

「そっか」

男の子はまだ笑っていた。

なんだろう。
この感覚。
あたし、おかしいよね。

すると――――






「勅使河原、遥」



「え…?」

男の子は少し微笑んだ顔で言った。

「俺の名前」

どうして?
どうして?
どうしてこんなに胸が熱くなるの?

おかしいよ…。


あたし…。