遼ちゃんの瞳が私の瞳を捕らえる。


私は息ができないくらい胸がいっぱいになって…


遼ちゃんの唇が動き始めた。


「おまえ、がんばったんだな」


へ?



遼ちゃんの言葉に目がキョトンとなる。


遼ちゃんは胸ポケットに手を入れて何かを出そうとした。


「コレ使え。荒れたら音が出難くなるぞ」



渡されたのは、メンソールのリップクリーム。


「あ、ありがとう」



遼ちゃんはリップをくれると、嶌田部長に呼ばれて音楽室を出て行った。



私の手には、まだほのかに温かいリップ。

遼ちゃんの体温が感じる。



これ、遼ちゃんが使ってるんだよね?

私、使ってもいいの?



なんだか恥ずかしくてすぐには使えなかった。



周りの人がいなくなってから、そっと唇に塗った。


メンソールがスースーして気持ち良い。



胸がドキドキして顔が熱くなる。


キュン…



また胸が掴まれる想いをした。


ただのリップクリームなのに、遼ちゃんの物ってだけで特別なものになる。




顔の体温が下がってから遼ちゃんに返しに行ったけど、遼ちゃんはもう帰っていなかった。



だから、その特別なリップは私の胸ポケットに入れて持って帰っちゃった。