さっさと歩く遼ちゃんの背中が遠くなる。


今‥助けてくれたんだよね?

お礼‥言うべきだよね?


だけど、なんか恥ずかしい。


面と向かってお礼を言うことが、こんなに恥ずかしいなんて初めて。



「小‥小川先輩」


私の小さい声をキャッチして遼ちゃんが振り返った。


何もなかったように私を見る遼ちゃんの瞳。


その瞳に胸を掴まれる…。



言葉が出てこないよ。



戸惑っていると、遼ちゃんの口が大きく開いた。



『ばーーーーか』




遼ちゃんは声をださずに言った後、そのまま音楽室に入って行った。



私は遼ちゃんの姿が見えなくなるまで立ち尽くしてた。