今なら、あの頃のこと話してもいいかな。

怖いけど、聞いてみようかな。


勇気をふりしぼって口にした。



「こうしてると、小さい頃を思い出すね」


「小さい頃‥‥?もう忘れたよ」


遼ちゃんはほどけた靴ひもを直しながら、

話を断ち切るように言った。



どうして?

本当に忘れちゃったの?



私は何も言えなくなった。


とても冷たくて、硬い壁が目の前にある。


しばらく沈黙が続き、雨の音が小さくなっていくのがわかる。

雨があがると遼ちゃんは学校に用事があるからって先に歩きだした。



その背中はすごく寂しそうで…

泣いているように見えた。




私は初めて


その背中を抱きしめたいって思った。




抱きしめて温めたい


そう思った。