「できない…やっぱり‥でき‥ないよ…」

聞き覚えのある男の声。


私の手首を強く抑えつけている手が震えていることに気づいた。



男はそのまま走り去った。





今の…何だったの…?



ショックと恐怖で頭の中がパニックになった。



どこかで聞いた覚えのある低い声が誰なのか思い出せなかった。





その場から早く逃げたくて、袋から落ちたチョコレートを拾わないまま家に向かって走った。



その途中、遼ちゃんの家が見えた。





「遼ちゃん…」




今すぐ遼ちゃんに抱きしめてほしかった。



だけど、私はそのまま家に帰って自分の部屋に入った。




床に座り込んだ私は思ったんだ。


きっと神崎先生も同じ思いをしたんだ。


好きな人に抱きしめてほしいっていう気持ちがこんなふうにあったに違いない。



もし私があのまま遼ちゃんの家に行ったら、きっと遼ちゃんは抱きしめてくれたと思う。




遼ちゃんはそういう人だから…。




私は、そんな遼ちゃんが好きなんだ。