「先生は誰かにチョコあげるんですか?」


バレンタインの前日、神崎先生の授業が終わると和田君が神崎先生に言った。


「あげるわよ、手作りのチョコレートケーキ。
みんなにも小さいけどチョコあげるから楽しみにしててね」


そう言いながら神崎先生は私を見ていた。



神崎先生が職員室に向かう途中、私はずっと避け続けていた神崎先生に声をかけた。



「私、遼ちゃんにチョコあげます」


神崎先生に何も言わないまま遼ちゃんにチョコを渡すのはいやだったから言ったんだ。

そしたら先生はクスッと笑って私を見下すように言った。


「それがどうかしたの?遼が受け取らなくても私を怨まないでね」



神崎先生は自信たっぷりな歩き方で職員室に入って行った。








神崎先生がどう思おうと、私は遼ちゃんにチョコあげるんだから!


そう思いながらトランペットを吹いてた。




部活の時間が終わり、帰る準備をしていると太田先輩が声をかけてきた。



「葵ちゃん、もしかして明日小川先輩にチョコ渡すの?」


「はい。だめでも自分の気持ちは伝えようと思うんで‥」


「がんばってね。私、応援してるから」



私達の会話を聞いてた東先輩が親指を上げて応援してくれた。



「ありがとうございます!」




先輩達の応援が、私の中の神崎先生の影を消してくれた。