約束をしていた校門に、遼ちゃんが少し遅れて来た。


「ごめん、遅くなって」


「いいよ。どこに行くの?」


「まずは…花屋さん」


「花屋さん‥?」



遅れた理由を言わなかった遼ちゃんに、私はどうして遅れたのか聞けなかった。


もし二人の姿を見てなかったら真っ先に聞いてたと思う。


だけど二人を見てしまった私は、怖くて聞けなかったんだ。




学校の近くにある小さな花屋さんで、遼ちゃんは白いスイートピーの花束を買ってバスに乗った。


少し硬くなった遼ちゃんの顔を見て、私は次に行く場所を聞くのをやめた。


30分ほどバスに揺られると、辺り一面に田んぼや畑が広がり、腰を曲げたおじいちゃんやおばさんが野菜を収穫していた。


それから少しして、『富里』というバス停でバスから降りた。



長く続く一本道の先を歩きはじめ、見えてきたのはいくつものお墓だった。



「ここ、母さんのお墓なんだ…」


遼ちゃんの横顔が、寂しそうに一つのお墓を見ていた。



「小さいとき、道端で咲いてたスイートピーを一本持って帰ったら、母さんすごい喜んでくれてさ…」


スイートピーをお墓の前に置いた遼ちゃんは、しばらく手を合わせて目をつぶっていた。


私も手を合わせて遼ちゃんのお母さんに話しかけた。


『遼ちゃんのお母さん、遼ちゃんを見てくれてますか?
遼ちゃんはお母さんのことが大好きですよ…』