「遼ちゃんのトランペット吹いてみてもいい?」

「いいよ」


遼ちゃんの大きな手から渡されたトランペットは、私の手にくると急に大きくなったように見えた。


一度遼ちゃんのトランペット吹いてみたかったんだ…。


ゆっくりドからオクターブ上のドまで鳴らしてみた。


「あれ?3番のピストンの動きが鈍いみたい」


「ああ、3年間の俺の癖がついてるからね。葵の楽器はいろんな人の癖が混ざってるからわかりにくいだろうけど、自分の癖が楽器についてくるんだよ」


「そうなんだ…」


遼ちゃんの癖が染みついた銀色のトランペットが、とても愛しく思えた。


「ここ、どうしたの?凹んでる」


トランペットの先端部分に小さな凹みがあることに気づいた。


「椅子から落ちた時に床にぶつけちゃったんだ」

ちょっと恥ずかしそうに頭をかいた遼ちゃんを見て、柏木先輩が言っていたことを思い出した。



「初めてのステージの時でしょ?」


「え!?なんで知ってんの?」


「柏木先輩から聞いちゃった」


「あんにゃろ~、余計なことはなにも言うなって言ったのに…」


遼ちゃんの照れた顔が可愛くて、つい笑っちゃった。

そんな私を見て、遼ちゃんはちょっとだけ顔を赤くした。