静かなバスの中、砂山先生が五人目の審査表を読んでいないことに気づき、一つ咳払いをして読み始めた。



『皆さんの演奏は、リズムの乱れと音量のアンバランスが終盤に目立っていました。
けれど、熱い思いが胸の奥に伝わってきました。
素敵な演奏をありがとう。』




この審査表を書いたのは、五人の中で一番厳しい評価をする米澤雅子という唯一女性の審査委員だと後から知った。


あの眉間に皺を寄せて咳払いをした女の人。

『ありがとう』と書いてくれたのが、唯一顔を見た人だったことが、なぜだかとても嬉しかった。




遼ちゃんが起きたらこのことを話そう。


『ありがとう』なんて審査表に書かれていたことを知ったら飛び跳ねちゃうくらい喜ぶんだろうな。



遼ちゃんの喜ぶ顔が早く見たい。


早く見たいのに、バスに揺られて私まで眠くなっちゃったよ…。




気づかないうちに、遼ちゃんの頭に顔を乗せて眠っていた。




きっと学校に着くと、

遼ちゃんの「おはよう」の笑顔で起こされちゃうんだ…。




大好きな、


愛しい笑顔に…。