バスの中はとても静かだった。

泣き声も、溜め息すら聞こえてこない。



遼ちゃんは、さっきまで降っていた雨の雫が

窓をつたって落ちていくのを黙って見ていた。




何て声をかけたらいいのかわからないよ…。


遼ちゃん、こんな時はどうしてほしい?



何もできない自分が悔しい。悔しいよ…。






みんなの異様な空気を察したバスの運転手さんが小さくFMのラジオをかけ、バスの中に知らない洋楽が流れる。


砂山先生が先頭の席の手すりに摑まり、みんなの顔を見渡し話し始めた。

「みんな、よく頑張ったな‥。先生の力不足…すまない…。これから審査委員の評価を読むからな……」



先生の力不足なんて誰も思ってないよ…。

先生にはみんな感謝してる。


だけど、誰も口を開くことが出来なかった…。



先生は胸ポケットから四つ折りにされた五枚の審査表を出し、硬い表情でゆっくりと読み上げる。




一人目の審査のコメントは、そっけないものだった。


『前半は素晴らしかった。けれど曲が進むにつれて不安定なリズムになっていた。残念です。』







二人目、三人目は私達の状況を知っていたかのような鋭いことを書いていた。


『個々のレベルは他校より優れていました。きっと全国大会でも通用するでしょう。
しかし指揮者とのずれがあり、まるで指揮者が楽器に合わせて指揮をしていたように感じられた。もう一歩でしたね。』







そして四人目のコメントも鋭かった。


『演奏開始時の、金管の力強さとパーカッションのアクセントが、とても良く表現されていました。今大会ではトップレベルだったでしょう。
しかし、終盤にかけて指揮とパーカッションが不安定になり、釣られるように音の強弱やリズムのずれが感じられました。』