バスが会場に到着すると、砂山先生がバスの先頭に立ちみんなに話し始めた。


「先生な、高校生の時までずっと野球部だったんだ。だけど根っからのあがり症でバッターボックスに立つといつも足が震えてた‥」


真剣な表情で話す先生の足が小刻みに震えていて、いつも堂々と歩いている先生の足とは別のものに思える。

だけど先生はそれを隠そうとせず、言葉を一つ一つ選んで話しているように見えた。



「緊張で何度も逃げ出したくなったよ…。だけど、そんな時はいつも吹奏楽部の応援が遠くから聴こえてきて、踏んばる力をもらってたんだ。
きっと、みんなの演奏も嶌田に届くはずだ。だから精一杯みんなの思いを演奏しよう」



砂山先生がこんなふうにみんなに話したのを見たのは初めてだった。


怒鳴るわけでもなく、注意するわけでもなく…。

先生の弱さと強さを同時に見せてくれたように思えた。



みんなは先生の話に熱い視線を向けて聞いた。

いつも暑いと言って先輩たちに茶化されてた砂山先生。

だけど、目の前にいる震えた先生を誰も茶化す人なんていない。



みんなが受け取ったよ。


砂山先生からの熱いメッセージ…。




話し終わった後もみんなから熱い視線を受け、先生はちょっと照れてる。

どうしたらいいかわからなくなった先生は、突然遼ちゃんに話をふった。


「小川、バスから降りたらみんなが集まるのは演奏後になる。
嶌田の親友として何か言いたいことあるか?」

「え!?俺ですか??」


遼ちゃんは突然のふりに戸惑いながらも立ち上がった。


不安と強い思いを胸いっぱいにしているみんなの顔をゆっくりと見渡して、遼ちゃんが言った。


「みんなにとって最初で最後の今日のコンクール、思いっきり演奏しような!」



遼ちゃんの言葉にみんなが叫んだ。

私も叫んだよ、大きな声で力いっぱい。



みんなの声が、笑顔が、

みんなに勇気と希望をあたえてる。





私達は熱い思いを胸に、コンクール会場へ入った。