林先生が砂山先生に視線を送り、

「みんな、ちょっと待っててくれ」と言い、二人で廊下に出ようとした。


きっと悪い事態が起こってる。

麻衣子のあの声、救急車の音。

林先生のあんな顔、今まで見たことなかった。


みんなの硬直した顔が、先生たちの背中をすがるように見てる。


「林先生、もうみんな事態は察してます。ここで話して下さい」

遼ちゃんが立ち上がり、冷静な口調で言った。


「そうだな…。事態をはっきりさせない方がお前たちも不安だよな。
わかった。みんな席に着いてくれ」


林先生は動揺している砂山先生にゆっくりと頷いて見せた。


席に着いた私達は、不安を押し殺して教壇に立つ林先生の顔を真っ直ぐ見た。

隣に座った嶌田部長を慕う信汰の顔は、今にも泣きそうだった。



「はっきりとしたことは病院に行ってみないとわからないが、学校に来る途中、左折してきたバイクに嶌田が轢かれたらしい。
妹の話では、意識がない状態で救急車で運ばれているそうだ…」


林先生の言葉が、テレビのニュースで読まれている原稿に思えた。

毎日ニュースで流れている『事故』が、こんな身近で起こるなんて…。


「林先生、わたしが嶌田の病院に行きます」

砂山先生が汗を流しながら立ち上がった。


「いえ、わたしが行きます。嶌田の担任はわたしですから。
先生はここでみんなとわたしの連絡を待ってて下さい」


林先生の言葉に頷いて、砂山先生はもう一度席に着いた。


「みんな、状況が分かり次第連絡するから、不安なのはわかるが落ち着いて待っててくれ。
もしかしたら脳震盪を起こしただけかもしれないしな…」



林先生はみんなの不安を和らげるように、優しい笑みを残して病院へ向かった。