「麻衣子ちゃんて、もう来てる?」

「ううん、まだ来てないみたい。嶌田部長と一緒に来るはずなんだけど…」


音楽室を見渡しながら答えた。


寝坊でもしたのかな?

私はそんな軽い気持ちでいたけど、遼ちゃんの顔は急に硬くなった。


「啓介が集合時間前に来ないなんておかしい」

そう言って遼ちゃんが制服のポケットから携帯電話を出そうとすると、

私の携帯電話の着信音が鳴った。


着信は、麻衣子からだった。


「遼ちゃん待って、今麻衣子から電話‥」

遼ちゃんにそう言いながら麻衣子からの電話にでた。


「もしもし、麻衣子?今どこにいるの?もう遅刻しちゃ……」

話していると電話の向こうで泣き声のような荒い息づかいが雑音と一緒に聞こえてきた。


「麻衣子?どうしたの…!?」


私の異変に誰よりも早く察知した遼ちゃんが、私の目をじっと見ている。


私は遼ちゃんの目を見ながら麻衣子の声を待った。



『お‥兄ちゃんが…お兄ちゃんが‥事故に‥あって…』

泣き叫んだ後だとわかる擦れた声が、救急車の音で消されていく。


「麻衣子!?事故って、嶌田部長が事故に合ったの!?」


私の声にみんなが反応した。

林先生がすぐに駆け寄ってきて、青い顔で私の携帯をとった。


「何があった?…落ち着いて話しなさい」



物音ひとつしなくなった音楽室で、先生の頷く声だけがみんなに伝わる。


電話を切った先生の顔は、誰が見ても青ざめていた。