アッ君がそれに気づき、私を後ろから抱きしめた。

「もう、帰りたい?時計ばっかり気にしてる…」

「ううん、そうじゃないんだけど…」

「今夜は一緒にいたい」

私も一緒にいたい…

でも、もしかしたら、空が待ってるかもしれない…

「ごめん…今日は帰るね。…ちょっと、一人の生徒が気になってて…」

「誰?」

私は名前を言わなかった。

…アッ君はため息を一つして、私を一層強く抱きしめた。

「美樹、良い先生やってるな。…今日はその子に免じて帰してやるか」

そう言って、私の背中を押した。

「ごめんね。今度の休みはゆっくりしよ?」

アッ君は笑顔で頷いた。私はアッ君と別れると、急いで自宅に戻った。

ドアを開けると、中は真っ暗だった。

玄関の電気を点けると、男物のスニーカーが並んでいた。

私は部屋に入り、そっと電気を点けた。

空が、ソファーで丸まって、眠っていた。

私は空に近づいた。

すると、目をパチッと開けたので、私は、後ずさりをしてしまった。

「先生、おかえり。ハ~ァ、よく寝た」

「よく寝たって、もう、9時過ぎてるよ。家の人、心配するよ。早く、帰らないと」

オロオロする私を見た空は、クスクス笑っている。

「大丈夫だよ。毎日帰るのは、12時くらいだから。親も、オレに関心がないみたいだし」

空はスッと立ち上がると、私のほうへ歩いてきた。そしていきなり抱きついた。

「藤田君、離しなさい」

空は、腕を弱めるどころか、一層強く抱きしめた。

「先生…オレを、先生のペットにして」

エ?ペット?いったいこの子は何を考えているの?頭の中が混乱する。…相談って、これ?

「私のこと、からかってるの?」

「からかってなんかないよ。本気で言ってるんだけど…線瀬に、迷惑かけるつもりなんてないよ。暇な日だけでいいんだ」

「藤田君は、犬や猫じゃないでしょ?!人間をペットに出来るわけないじゃない。私たちの関係は、先生と生徒。」

「オレ、淋しいんだ。…誰もオレこと相手にしてくれないから…」

「エッ?…」

彼のこんな淋しそうな顔をはじめて見た。