あのいつも優しく頭をなでてくれる暖かい手も。
心配そうな優しい声も。
ひだまりみたいなあの笑顔も。
うちの前にはもうない。
たった1人で、体が弱いのに毎日毎日働いて。
うちのためにご飯を作ってくれる。
うちはそんなお母さんが大好きだった。
何よりもお母さんが大切だった。
でも、その大切な物を無くしてから。
もっと勇気なんででなくなってしまった。
今は泣くことはなくなったけど、人に伝える勇気はまだない。
小学校の卒業式の日。
ずっと好きだった人に勇気を出して告白してみた。
それを勇気と言うのかはわからないけど。
うちはフられてしまった。
その時は耐えきれず、泣いてしまった。
それから、失敗を恐れるようになってしまった。
だから今、フられるのが怖くて告白ができない。
勇気が無いのだ。
勇気をだす勇気すら無いのだ。
ずっとそんなことを考えていたら、泣きそうになった。
はぁ。
と大きな溜め息をついた時、後ろから声をかけられた。
「どした?泣きそうな顔してるけど?」
佑樹だった。
佑樹は隣のクラスの野球部で、たしか桜井と仲がよかった。
桜井と話に来たんだろう。
佑樹とうちは、小学校から仲が良かった。
でも、中学に上がってから話すことがあまりなくなった。
こうして話しかけられるのは久しぶりだった。
「ん…ちょっとね。てか話しかけるなんて、久しぶりだね」
まぁな。と佑樹は言った。
つまんないの。返事そっけな。
せっかく久しぶりに話せたのに。
今度はうちが話してやろう。
「ねぇ。桜井ってどんなやつ?」
聞いて損はないと、聞いてみた。
佑樹は少し困ったようだった。
でも。
「知らね。もう行くわ」
だけ返して教室に帰ってった。
なんだ。仲良いんじゃないのか?
まぁいいか。
怪しまれないかな?
うちじゃないんだが…。
小さいときからだけど、佑樹はいつも無愛想だ。
笑うときは豪快に笑うけど、普段は無口で女子とは全くと言って良いほど話さない。
話すとしたら、うちか極一部の小学校からの友達だ。
うちとはもう11年もの付き合いになる。
