あの時はただ止めたかっただけだ。
なんでなのかとか、具体的な理由はないし声が届くかどうかだって分からなかった。
だからこそ半ば諦めてもいた。
声が届かないことが常だったからだ。


それでも届いたからにはきっと理由があるのだろう。
神様のイタズラかもしれない。
神様の気まぐれだったとしたら、俺は天国に行ってまず全力で感謝の意を述べようと思う。
…もちろん天国に行く前提だ。
「ありがとう、神様。あの子に会わせてくれて。声を届けてくれて。」
神様なんて信じていないタチだったが、こうなっては信じざるを得ない。
だからありがとう、神様。本当に感謝している。


「ん…っ…。」


少し寝返りを打った彼女の衣服が少し乱れる。
でもそれさえも直してなどやれない。
…決してスケベ心がそうさせないのではない。
俺の身体ゆえなのだ。…待て、この言い方ではどっちとも取れる。
でも違う。触れないんだ。何にも。


「…触れたかった、な。」


彼女の想いにも、彼女にも。
本当に下心ではなく、純粋な想いでそう願った。
もちろん叶うべくもない願いだ。分かっている。


彼女の想いの端に触れ、それを尊いと思った。


あんなにも彼女は生きたがっていた。


「生きることに意味を見出そうなんて、君はやっぱりとても人間的だよ。」


眠る彼女にそう呟く。
届いてなどいない。完全に自己満足だ。でもそれでいい。