「何か浮かない顔してる」
「え?」
顔に出ていただろうか…
慌てて平手を頬に当てた。
「もしかして行きたくない?」
「そんなことないですっ」
「なら良かった」
凪先輩は、笑った。
嬉しかった…普段藍に向けている笑顔と同じだったから。
「凪っ」
割り込むように藍が凪先輩に話しかける。
「あー悪い、帰るかぁ」
藍は帰りの支度をして、バッグを持った。
空気を読もうと、あたしは席について携帯をいじる。
「西園寺さんは帰らないの?」
「あー…。課題終わってないので、残ります」
「じゃあね、葵♪」
あたしが二人に手を振ると、藍が凪先輩の肩を抱いた。
まるで見せつけるみたいに。
ふっていた手をおろすと、自分の表情が変わっていることに気がつく。
駄目…。悪いのは、あたしなんだから。
藍と凪先輩は付き合ってる。
それなのに、まだ好きでいるのはあたしの我儘。
何も望んじゃいけないのに…ドキドキしてしまった…
傷ついてしまった…
諦めるなんて言葉がまた、遠ざかってしまった…
夜。
「千菜ー佑樹!!おりておいで!!」
「はぁい~」
2階から二人が降りてくると、椅子に座ってご飯の準備を始めた。
相変わらず可愛い二人に、葵は今日の疲れなど忘れてしまっていた。
「おねーちゃん、これ何~?」
「これ?シチューじゃん」
千菜は考え込むようにじいっとシチューを
見つめると、そっか!と言って食べ始めた。
佑樹はそんな千菜を見て、不思議な顔をしていた。
「ねぇ、お姉ちゃんのシチュー下手だった?」
千菜がお風呂に入っている間、佑樹に聞いてみた。
「別に?いつも通りだったよ?」
アルバイトで厨房を任されているのもあり、
料理の腕には自信があった。
それを今まで見たこともないような顔をされて
指摘されたら、そりゃあ傷付く…。


