深呼吸をして息を整えるものの、動揺を隠せない。
「…是永?どうしたの?」
視界を開くと、藍が立っていた。
呆然とした顔で秀を見つめ、隣に立つ。


「…あ、別に…」
ショックで藍に対しても上手く話せない。
「凪のことなら、心配しなくても大丈夫だよ?」
「…あーわるい。今は一人にさせて」
「…分かった。ごめんね」
藍は立ち上がると、申し訳なさそうに教室に入った。
このときの秀に、人に構っている余裕はなかった。
ただ重たい何かが、心の中をじわじわと浸食していた。

「よー」
聞き覚えのある声がした。
顔を上げると、そこには凪の姿。
ポッケに手を入れたまま、秀を見下している。
ただその目は優しかった。
凪は秀の隣に座り込む。

「悪いなさっきは、舞い上がっちゃって」
「…凪先輩はまだ藍に片思いのとき、何か苦労しました?」
「!」
凪は目を大きくさせて秀を見つめる。
見つめ返してこない彼に、何を考えているか悟ったようで、
そうだなあー、と話を切り出した。

「したよ」
「どんな?」
状況が状況だったので、真剣に聞き返す秀。
凪はそのガッツキ度に多少驚きながらも、続けた。

「例えばー…ライバルとかね」

ーライバル。
それ、あんたなんですけど…と思いつつ、
ためになる気がして、秀は熱心に聞いた。
てか、藍の事を好きになる人が他にも居たとは。

「ライバルって邪魔だし、憎いもんだと思うけど
ライバルがいなかったら、ここまで努力して
来なかったと思うよ」
ー努力。

「何?好きな人、かぶったの?」
「それとはちょっと違いますけど…でも、
ライバルはいます」