「…」
凪は藍に言葉を返さず、黙り込んだ。
気まずい沈黙の時間が流れ、藍は目を泳がせる。

ガラッ!!
教室の扉が、勢い良く開いた。

「…ごめんね藍っ」
状況を知らない葵が、藍に近付いていく。
周りは葵をハラハラして見ている。

凪と秀がいるのに気付くと、葵はしばらく黙り込んでから、
「何かあったんですか?」と、聞いた。
つい、口から出てしまった。

凪は葵をじっと見つめると、手をつかむ。
「ん?」
葵は気付いたころには、もう連行されていた。
え、ちょっと!!と思いながらも、嬉しくて逆らえない。
「…っ」
「ごめん、秋永…」
「え、あ、いいよ!!うちが悪いんだし…」
藍はソッと凪と葵が出て行った教室の扉を見つめた。
何だか急に胸騒ぎがして、落ち着かなかった。



「あの、先輩?」
はっとすると、凪は足を止めた。
つかんだ手を離して、葵の方を向く。

「ごめんね」
「あ、いえ別に…」
凪の綺麗な赤茶の髪が、風になびいている。
アホ毛も可愛らしくひらひらしている。

「あの是永ってひと、藍の友達なの?」
凪は真っ直ぐな目で葵を見つめている。
ーその目で見られると、恥ずかしいのに、嬉しい。

「友達ですよ」
「ふぅん…仲悪いの?」
「普通に良いと思いますけど…」
ーああ、やっぱりそうなんだ。
何があったか分からないけど、凪は本気で藍を心配してる。
何だか立つのが辛くなって、息がしづらくなった。
凪が気を使ったように葵の背中に手をまわす。

「どした?体調悪い?」
ー…。それでも好き…。
葵は凪の服を掴もうとした。