「-葵!葵!」

誰かがあたしを呼んでる…。

その声で起こされた葵は勢いよく目を覚ます。
目の前を見ると、茶髪の女性があたしの机に寄りかかっていた。

「ん~?何?」
「もう昼休みだよ。ご飯食べよっ」
そうなんだ、とあたしは相槌を打ち、バックからお弁当を取り出した。

あたしの名前は西園寺葵。
こちらの女性は秋永藍といって、あたしの親友。


あたしはジュースにストローをさして、飲み始めた。
藍は飽きれたように顔を曇らせる。

「またそれだけ?栄養たりないよ?」
藍の心配を他所に、あたしはレシートを確認した。
〝126円〟とくっきり書いてある。

「千菜と祐樹のこと考えたら、我慢しなくちゃって思うの。それに痩せるし!!」
「あのね…一食最低でも400カロリーはとりなさい。はい、あたしのあげるから!!」
藍は自分の弁当からおかずを取り出して、トレーの上に置いて渡してくれた。
見慣れない手作りのお弁当に、思わず頬が温かくなる。
「葵はさ、無理しすぎなんだよ。2人の事だって、気を使いすぎ」
2人とは、千菜と祐樹のこと。
あたしの妹と弟で、母を知らずに父と4人で育ってきた。
家計はギリギリ保ってる状態だから、あたしはなるべくお金を使わず我慢してる。

「修学旅行はどうするの?」
ー修学旅行は1ヶ月先にある。
皆で沖縄に行くというのだから、楽しいとは思うけど…
正直かかるお金が、あたしにとっては馬鹿みたいな額…。

「行かないと思うよ」
あたし1人が少し楽しい思いをするためだけに、家計をぐちゃぐちゃにしたくなかった。
言ったらお父さんはきっと心配すると思うから、ずっと黙っている。

「もーらいっ」
「あ!!」
あたしが藍から貰ったトレーにのっていたタコさんウインナーを、とある男子が持っていった。
彼は満足気な顔をして、子供みたいに無邪気に笑っている。