大きなあくびをすると、目じりに涙がたまった。

 故郷では、口元を押えないままあくびをしたり、大声で笑ったり、それだけで叱られたことをなにげない場面で思い出す。そのたびに、結局のところ故郷のことが好きなのだ、と実感させられるのだ。

 ルシアは、決しておしとやかとは言えない動作で地面に散らばった荷物をまとめると、旅具を担いだ。足が思うままにそのまま森を抜けると、小高い丘の上に出た。眼下には、思わず足を止めて見入ってしまうほどの絶景が広がっていた。

 途切れることなく連なる山々の手前には、深い青を湛えた湖を囲う深い森がある。雲をも突き破らんとする高い山々の頂には、春をすぎても雪が積もり寒々しい色を見せていた。

 だが、湖の周りには花が咲いているのだろうか。ルシアの立つ位置からは、はっきりとものの形がわからないが、鮮やかな色が点々と辺りを明るく見せている。森の手前、丘から一番近い場所には町があるのだろう。煉瓦造りの家々がぽつぽつと立ち並んでいる。町の外れには、半円型の青く塗られた屋根を持つ、ひときわ大きな教会らしき建物も見受けられる。形も円柱だったり円錐だったり、はたまた正方形だったりと大小さまざまな建物は、やはりルシアには珍しい。なによりも、二年も旅に出ていて高地から地上を見渡したのは、これが初めてのことだったのだ。遊戯盤の上に自分が立っているような気分になる。

「あまり下ばかり見ていると落ちてしまいますよ」

 声をかけられ、ルシアが振り返ると青年がいた。