お向かいさんが仂の家。


あいつがかえる前に言うんだ。

だいっきらい。

私の人生、あんたに持っていかれたじゃないの。

『ろーくん、』

『何?』

『できたよ』

初めて作ったチョコレート。

『おいしい?』

『うん。しょーちゃん、またくれよな』

『うんわかった』

ぶっきらぼうなかおが、笑ってた。

それがうれしかったから、毎年あげていたのかもしれない。

うーうん。

“もらって”もらっていたんだ。


私はインターホンを鳴らした。


「あら祥子ちゃん、珍しいわね。仂なら二階にいるわよ? 呼ぼうか?」

「あ、いい。上がっていい?」

「どうぞ」

おばさんがやさしく笑って入れてくれた。

いつも駆け上がってた階段が、私の前に現れた。

しばらく、動けなかった。

「話が済んだら降りておいでね? おいしいケーキが買ってあるから」

私はうなずくと、ゆっくり、一段一段、足をすすめた。