「右丸を、ご存じでしょう?」
「ええ。左大臣様にお仕えしている、牛飼い童ですね」
「呉羽様のことは、彼からよく聞いておりました」
言うなり女官は、がばっとその場に突っ伏した。
「う、右丸を、助けてください」
「・・・・・・う~ん、何か起こったようだということは、気づいておりましたが。とにかく何があったのかを、お聞かせ願いませんと」
ぽりぽりと頬を掻きながら言う呉羽に、女官は羨望の眼差しを送る。
「ああ、呉羽様は、右丸の言ったとおり、類い希なるお力をお持ちなのですね。ああ、だったら心奪われるのも、わかろうというもの。実際にお会いして、わかりましたわ。そういえば、わたくしがこちらに訪ねてきたときも、先触れも出しておりませんのに、呉羽様はお迎えに来てくださいましたね。やはり、頼長様がお認めになられただけはあります。ここはやはり、呉羽様のお力をお借りするより、方法はありますまい」
一人べらべらと喋る女官に、呉羽の目は胡乱になる。
お陰で何か大事なことを聞いたような気がするが、その後の話にかき消されてしまった。
ひとしきり呉羽を褒めた後、女官は再び姿勢を正した。
「右丸が、倒れてしまったのです」
「・・・・・・はぁ」
呉羽は薬師ではない。
病気であれば治しようもないのだが、この時代は、大抵の病は物の怪や妖の仕業と考えられがちだ。
だから、病気の治癒のために呉羽のところに駆け込むのも、あながちおかしいことではないのだ。
「病気平癒ですか。う~ん、ちょっと、苦手な分野ですねぇ」
ぽりぽりと頬を掻く。
呉羽は外法師のわりに、もっぱら実戦を得手とする。
そはや丸を振り回して、物の怪をぶった斬るほうが、性に合っているのだ。
目に見えないまじないの類は、効果もよくわからないだけに、呉羽にとっては、やりがいもない。
「ええ。左大臣様にお仕えしている、牛飼い童ですね」
「呉羽様のことは、彼からよく聞いておりました」
言うなり女官は、がばっとその場に突っ伏した。
「う、右丸を、助けてください」
「・・・・・・う~ん、何か起こったようだということは、気づいておりましたが。とにかく何があったのかを、お聞かせ願いませんと」
ぽりぽりと頬を掻きながら言う呉羽に、女官は羨望の眼差しを送る。
「ああ、呉羽様は、右丸の言ったとおり、類い希なるお力をお持ちなのですね。ああ、だったら心奪われるのも、わかろうというもの。実際にお会いして、わかりましたわ。そういえば、わたくしがこちらに訪ねてきたときも、先触れも出しておりませんのに、呉羽様はお迎えに来てくださいましたね。やはり、頼長様がお認めになられただけはあります。ここはやはり、呉羽様のお力をお借りするより、方法はありますまい」
一人べらべらと喋る女官に、呉羽の目は胡乱になる。
お陰で何か大事なことを聞いたような気がするが、その後の話にかき消されてしまった。
ひとしきり呉羽を褒めた後、女官は再び姿勢を正した。
「右丸が、倒れてしまったのです」
「・・・・・・はぁ」
呉羽は薬師ではない。
病気であれば治しようもないのだが、この時代は、大抵の病は物の怪や妖の仕業と考えられがちだ。
だから、病気の治癒のために呉羽のところに駆け込むのも、あながちおかしいことではないのだ。
「病気平癒ですか。う~ん、ちょっと、苦手な分野ですねぇ」
ぽりぽりと頬を掻く。
呉羽は外法師のわりに、もっぱら実戦を得手とする。
そはや丸を振り回して、物の怪をぶった斬るほうが、性に合っているのだ。
目に見えないまじないの類は、効果もよくわからないだけに、呉羽にとっては、やりがいもない。


