妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~

「右丸を、ご存じでしょう?」

「ええ。左大臣様にお仕えしている、牛飼い童ですね」

「呉羽様のことは、彼からよく聞いておりました」

 言うなり女官は、がばっとその場に突っ伏した。

「う、右丸を、助けてください」

「・・・・・・う~ん、何か起こったようだということは、気づいておりましたが。とにかく何があったのかを、お聞かせ願いませんと」

 ぽりぽりと頬を掻きながら言う呉羽に、女官は羨望の眼差しを送る。

「ああ、呉羽様は、右丸の言ったとおり、類い希なるお力をお持ちなのですね。ああ、だったら心奪われるのも、わかろうというもの。実際にお会いして、わかりましたわ。そういえば、わたくしがこちらに訪ねてきたときも、先触れも出しておりませんのに、呉羽様はお迎えに来てくださいましたね。やはり、頼長様がお認めになられただけはあります。ここはやはり、呉羽様のお力をお借りするより、方法はありますまい」

 一人べらべらと喋る女官に、呉羽の目は胡乱になる。
 お陰で何か大事なことを聞いたような気がするが、その後の話にかき消されてしまった。

 ひとしきり呉羽を褒めた後、女官は再び姿勢を正した。

「右丸が、倒れてしまったのです」

「・・・・・・はぁ」

 呉羽は薬師ではない。
 病気であれば治しようもないのだが、この時代は、大抵の病は物の怪や妖の仕業と考えられがちだ。
 だから、病気の治癒のために呉羽のところに駆け込むのも、あながちおかしいことではないのだ。

「病気平癒ですか。う~ん、ちょっと、苦手な分野ですねぇ」

 ぽりぽりと頬を掻く。
 呉羽は外法師のわりに、もっぱら実戦を得手とする。
 そはや丸を振り回して、物の怪をぶった斬るほうが、性に合っているのだ。
 目に見えないまじないの類は、効果もよくわからないだけに、呉羽にとっては、やりがいもない。