「でも、だんだんその回数が増えてきたように思えてきたのです。目の下に隈を作って、スケッチブックだけしか見ていないし…」
 
その少し前から、狩野の絵の売れ行きがあまり芳しいものではなくなってきていたのだという。
 
婦人が彼の家に食事を作りに行ったりもしたそうだが、ずっと壁の方を向いたままだったそうだ。
 
「彼が見ていたのはあの白い壁のずっと向こうだったんでしょうね…。私には見えない、遥か遠く…」