その頃、僕は大学受験の為、一人でアパートを借りていた。
海に近いのでよく散歩をする。
気分転換に良いのだ。
冷たい空気。
まだ明けきらない空。
「今日も天気良さそうだな。」
サク、サク、サク…。
足音に目を向けると、一人の女性が海へ歩いている。
女の髪を舞いあげる風。
スカートがはためく。
するとそのまま海へ入っていく。
風によろめきながら。
「おい。何してんだ。」
歩く彼女。
「おい。聞こえてんだろ。危ねぇぞ。」
「おいってば。」
腕を掴む。
彼女は振り向いたがすぐに向き直し、何もなかったように歩き出す。
「何してんだよ。早くあがれよ。」
歩いていく。
仕方がないのでムリヤリ海からあげる。
「何であんな事したんだよ。」
僕をじっと見る。
ガラスのような瞳で。
「…とにかく家に来いよ。そのままじゃどうしようもないだろ。」
手を引き、家へ向かう。
「家はどこだ。」
「名前は。」
「いくつだ。」
何も話さない。
「まあ上がれよ。シャワーくらい浴びれるから。風呂は沸いてないけど。」
「ここが風呂。…シャワーの使い方ぐらいわかるよな?」
着替え着替え。
あ、タオル。
服…はこれでいいか。