正三たちだけでなく、乙矢と弓月も柵の内側の異変に気が付いた。

武藤の顔に余裕が戻り、その口の端に残忍な笑みが浮かぶ。


「そろそろだな。薬の切れる頃だ」

「どういう意味だ! お前ら何をしやがった!」

「これは異なことを。『二の剣』をお持ちなら気付くのでは? 対となる『一の剣』の呼ぶ声に」

「お前たち……里人を閉じ込めた中で、神剣の鬼を放ったのかっ!?」


乙矢の隣で弓月が叫んだ。




高円の里までの道中、乙矢は弓月の父、遊馬家前宗主の死に様を聞かされた。


弓月の父は、満と弓月に『二の剣』を託し、『一の剣』を抜いた。

そして鬼と化したのだ。

満は父を止めようとしてその場に残り、斬られた。父は逃げる息子の嫁すらも……残った一門の全てを殺し尽くした。

そして、駆けつけた幕府の鉄砲隊に蜂の巣にされても、神剣を手放さなかったという。

最期は首を切り落され、ようやく殺戮は終わる。