――すがろうとした。愛そうとした。心の底から愛しいと、俺は。
「あんな、偽物に……っ」
兄の言う通りだった。右桜が持つ香我美はショルダーバッグの中にあって、あれらではない。
立ち上がった拍子に床落ちたバックを見つけ、右桜は心臓が止まるほどの悲痛を感じた。
「香我美っ、香我美っ、ごめ、ごめん……!」
涙しながらに抱きかかえて撫でる。
間違っていた、香我美に抱きしめてもらいたいだなんてわがまま、今の香我美にできるわけないのに。
できたとしたらそれは偽物だ。今の香我美は何もできない、自分たちが尽くし守らなければならない受け身の存在なのに。
「なんて、馬鹿なことを……」
「反省はいいが、泣くな。お前が泣けば香我美とて悲しむ。俺だって……」
「兄さん……」


