「あ、ああ……っ」
香我美がと、転がる首にすがろうとする右桜を先越して、左桜がその首が届かぬ場所へと蹴りあげた。
散乱する血飛沫の中、厳しい顔つきで左桜は――
「俺たちの香我美は、ここにいるだろう……!」
振り絞った声をあげながら、脇に挟んだショルダーバッグを大事そうに抱えた。
「偽物だ。あり得ないことがあり得ないだと?ふざけるな……!香我美は一人だ、俺たちが愛したのは一人だけ、こんな……っ、こんな形だけが似ている奴なんかに愛情なんか持つな!俺たちの香我美が、本物の香我美が悲しむぞ!」
怒りの冷水を浴びせられたようだった。
がくがくと噛み合わない歯を何度も鳴らして、自分が今しようとしたことに右桜は恐怖した。


