カッティングナイフにしては長い刃がケーキを分解していき、赤い果汁がクリームに滲む。
「外れた代わりに新しいネジが巻かれている。つまりは、自分で自分のルールを作れる子。世界の常識を根本から変えてしまう思考の持ち主だ」
語るヴェンスに耳など貸せなかった。意識自体か扉の前から、こちらに近づく香我美に向く。
幽霊のように何も言わず、存在感さえ曖昧ながらも、見てしまった以上、これは生前の香我美だと思った。
「香我美……」
動揺に落ち着きを取り戻す右桜が手を伸ばそうとする。
願ったのは右桜。
香我美が死体になってから、いつもこちらが抱くから――たまには抱きしめてほしいと願ったんだ。


