「時計屋にでも見せることだな。馬鹿馬鹿しい」
「右桜」
「左桜だ」
「そうそう、左桜。それはあり得ないと思ってのことだろうけど、このワンダーランドでは“あり得ないことがあり得ない”んだよ。空飛ぶ魚も湖を泳ぐ鳥も、みんな在るし、望むならばそこにいる。――もっともそれは、あの子に与えられる特権だけど」
あり得ないことがあり得ないだなんて、深く考えればパラドックスにもなりそうだが、浅く考えればますます怪しく思えた。
硬派な左桜にしては冗談と思えようが、柔軟な思考の右桜には興味を引く。
「あり得ないことがない……、だったら」
言いかけて、かちゃりと扉が開いた。
自然と目付きがそちらへ。三者の視線を受けたのは一人の女で。


