「今までずっと歩いていたが、森しかなかった」
「出口なんかなかったよ。ずっと歩いたけど」
「ずっと?おかしいな、時は止まっているはずなんだけど。少々、へそを曲げてね。僕が何かしたらしいが覚えていない。覚えていないものは謝ることもできないから、僕たちはただ待つだけ。時の機嫌が治るまで。時の役目を放棄している時が終わるまで」
確認のためか、ヴェンスが懐中時計を出して、自分が見た後に双子に見せた。
時は止まっているに違いなく、秒針がかちりとも動かない。
「時が止まっているならば、“ずっと”なんかない。同じだ、一時間前も一時間後もない。今は今で、君たちが過ごした時などない。あるとすれば歩いた距離だ」
懐中時計をしまうヴェンス。単に懐中時計が壊れているとも判断できるために、左桜はあり得ないと受け流した。


