「……」
念願叶った人がいたのだから、道を聞けと頭で思うも言葉が出ない。
この場に呑まれたか、もしくは帽子の男から得も言われぬ異質を勘ぐってしまったからか。
左桜と同じく、右桜とて口を閉じていたが、愛想良さでは左桜より上な弟が黙り込むわけもなかった。
「すみません、勝手に入ってしまって」
「構わないよ。招かれざる客はいるが、この家の鍵を持たない“あの子”がいつでも入れるように扉は開けているんだ。
そうして僕もいつでもあの子を迎えれるようにここに入る。うるさくないならいい、あの子でなければもてなさないが、追い出したりもしない」
つまりは気にしていない、と回りくどく言われた気分だった。
あの子とは誰か待ち人でもいるらしいと思うも、聞くほど興味は湧かなかった。


