―キィィ…


扉が開いた瞬間、生暖かい風が髪を撫でる。


ほのかに血の匂いがした。


―カツ、カツ、カツ…


地下へと続く階段をただ無言に下りる。


「…どうぞ」


しばらくすると、また扉の前へとたどり着いた。


その扉を伝令役の男が開ける。


―キィィ…


今度は死臭がした。


あぁ…死の臭いがする…
ただ器だけが腐る臭い。
そこには魂や命なんて存在しない。


「…ありがとな。こいつらの為に…」


カインはそう言って笑みを浮かべた。


目の前にあるのは黒い棺の中に横たわる死体が二つ。


「…ここへ来たのは私の意志」


だから、お礼を言われる覚えもない。


私が彼等に会いたかったんだ。


私は死体へと手を伸ばす。


「アメリア!?」


カインは驚いたように私を見つめる。


死体の頬に手をあてる。
血が手を汚しても気にならなかった。


周りが息を呑んだのが分かる。


おそらく皆、私を気色悪いとさえ思っているんだろう。


「…ありがとう…。ごめんね…救ってあげられなくて…」


涙がポタッと死体の頬に落ちた。


目の無い死体、腸の無い死体は見るからに恐ろしいものだろう。


それでも彼等の命は……



「あなた達の魂は…私が全て背負うから…」


どうか今は安らかに。


「願いと引き換えにした運命……。もうあなたの枷は取れたの、だから…来世では幸せに……」


この身に流れるワルプルギスの血よ……


「汝の罪と枷を消し去れ」


―ピカッ


光が瞬くと共に彼等の体は灰となってサラサラと消えていく…



「アメリア…お前……」


手に残る灰に私は口づける。


「安らかに………」


そして棺の中は灰の山となっていた。