その夜


夜よりも深い黒衣の裳(もすそ)を翻し、月の神はセラの地に降り立ちました。


アレイス樹の花の香りの合間をぬって、どこからか笛の音が聞こえてきます。


生命溢れる春を喜ぶような、優しい音色でありました。


美しい音色に誘われるように、月の神は庭園を歩いて行きました。