時計が気になったように、忍は教室の時計を見た。
「そろそろ行かなきゃ」
こういう時、別々のクラスなのがもどかしい。忍は忍で音楽科に進んだことは良かったのだろうが。
「忍、音楽クラス、大丈夫か?」
智が訊くと忍は微笑んだ。
「大丈夫」
忍が行ってしまい、ややして周りの男子が忍の雰囲気に気圧され気味になっているのに、智と涼は気がついた。
「四季やっぱスゲー。揺葉忍とつき合えるとか」
智は「その他大勢」になってしまっている男子たちを横目に見ながら、呟いた。
「何かこう、会長やら四季やらを見ていると、卑屈になるような気持ちになるのもわからんでもないけど、四季はやっぱり最初から感じ違っていたんだよな」
「感じ?」
「姿勢よ。四季、忍が会長のこと想っているの知ってて、それでも忍に行ったんだもん」
涼は「もし会長が涼のことを好きではなかったら」ということに思いを馳せた。
気がついてみたら、自分は愛されていた。
由貴を好きだと気づいた時には、もう由貴は桜沢涼という人間のことを好きでいてくれたから。
「会長が涼のこと好きになってくれなかったら、涼はどうなっていたんだろう…」
智は涼をちらっと見て、端的に言った。
「そういう『もしも』は考えなくていいんじゃないですか?」
綾川由貴が桜沢涼以外を好きになることがあるのか──今の由貴を見る限り、その「もしも」を考えるのは取り越し苦労のように智には思われた。
「智はいないの?」
「いないって、好きな人?」
「うん」
智は屈託なく笑った。
「好きな人ねえ…。出来るといいんだけどね」


