時は今




「智にはお父さんってどんな感じ?」

 涼が聞くと、智はちょっと上を見て、まずそうに笑った。

「うーん…。うちはうるさいのが3人もいるからなぁ。私も含めて。朝の洗面所なか、お父さんなんか私らのバタバタに追いやられて、台所で歯磨きなんかしてんのよ。ありゃちょっとないわ」

「え?お父さん怒らないの?」

「そうだねー。うちのお父さん、優しいのかもね。お母さんの方が呆れて、ちょっとはお父さんも大切にしなさいみたいに言うし。子供は遠慮なく生意気だから親父食ってるね。ははは」

 智の言い様はそれでも何処か「お父さんはお父さん」という父親に対する何かしらの思うところはある感じだ。温かい。

「涼ん家のお父さんは間違いなく優しいだろ」

 智が訊くと、涼はにこっと微笑んだ。

「うん。歳がお祖父様に近いの。同級生のお父さんお母さんに比べるとかなり歳上だから」

「ああ…いつだったか学校に来てた時、みんなが口を揃えて紳士だっつってたからなー。あんな感じの父親ってのはそうそういないわ」

 教室の出入口が一瞬しんとなった。

 揺葉忍が顔を見せたのだ。涼と智がいることを確認して、こちらに来る。

「忍?いらっしゃいませ」

 智が嬉しそうに迎え、涼が心配げに訊いた。

「どうしたの?お父さんのこと?」

 忍は柔らかい微笑を浮かべると首を振った。

「演劇部の衣装室、スペース借りられないかと思って。音楽科の衣装を置けないかなって」

 智は「ああ」と反応した。

「確かに置き場所困るよな。大丈夫だと思う。別のところからはそういう声はまだかかっていないから。演劇部のやつはちょっと片して置き場所作ればいいし」

 ふたつ返事とはこのことだ。

 忍は助かったような表情になる。

「ありがとう。智はどの時間なら大丈夫?片付ける時は私も手伝うわ」

「そうだな…。今日授業が終わってからなら」

「わかった」

 忍はそう答え、涼の方を見た。

「お父さんのことは大丈夫。四季のお母さんが話をつけてくれたから」

 涼もそうだが、横で聞いていた智も驚いて忍を凝視した。

「ちょっと待て。四季の母親が話をつけるような事態になってるのか?」

「そう。私、あの人と話をしたんだけど、あの人が何を考えているのか、話せば話すほど価値観が違い過ぎていることに愕然として、これ以上私が話をしても何か意味があるのか、わからなくなってしまったの」