樹は「ごめん」と口にする。
「俺は雛子に警戒されてる。今俺が下手に強気に出ると雛子はますます頑なになる。だから、どうしたらいいのか考えて欲しい」
「…どうしたらって」
樹ではなくとも、今、雛子の周りにいる人間なら、誰もが思っていることである。
杏が言った。
「高遠さんは四季くんが好きだから、四季くんが何とかしてくれたらって、思っている子、多い。でも四季くんの彼女はゆりりんだから、四季くんだけが高遠さんのために動くと、高遠さんは高遠さん自身が言っていたみたいに、四季くんがいないと何も出来ないみたいな感じになっちゃう。高遠さんはそうしたいつもりはないのかもしれないけど、心が四季くんに依存してしまってるの。それは、これから先の高遠さんにとっても、良くない。こんな依存が許されるのは子供のうちだけだよ」
依存という言い方を杏はした。そこまで言わせる心を狂わせる成分があるのが恋という方がより近いのかもしれないが。
四季は杏の言葉を聞きながらも、遠い子供の頃に心を馳せているようだったが、また何か思い当たったように今度は忍を見つめた。
「忍──」
「何?」
「こころって…」
忍は何の話かというような表情でいたが、一瞬間を置き、息を飲んだ。
その表情を見て、四季は理解する。
「忍があの時の…」
四季が小学校の頃に出会ったふたりの少女がいる。
ひとりは、初めて会った時は少年のようにも見えた少女。
もうひとりは、四季が怪我をした時の理由を知っている、高遠雛子。
「ゆりりん?」
杏が何があったのかと聞きたげな表情になる。忍は四季を見つめたまま、言った。
「私、小学校の頃に、四季に会ってる」
四季の中で、その時の少女の名前と忍とが、すっとひとつになった。
「忍という字は、はのこころ、と書くよね」
四季が訊いた。
「そう。『はのこころ』は私」
「どうして…?」
「……。四季には後で話すわ」
忍には何か理由があるようだった。
樹が「話が見えないんだけど」と聞いてきた。
「雛子が四季を好きなのと、揺葉さんが小学校の頃の四季を知っているというのは、何か関係があるの?」


