忍は時計を気にしながら縫っていた衣装を片づけ始めた。
「あれ?ゆりりん、もうおしまい?」
「そろそろ四季が教室に来るかと思って」
「え?四季くんに内緒で作ってるの?」
「こういうの、文化祭当日に見た方が、ええっ!?てならない?」
「ああ、四季くんをびっくりさせよう作戦だ」
忍の話を聞いて杏は目を輝かせる。ほのかが窓から廊下をちらりと見て、四季くんが来たよ、と教えてくれた。
高遠雛子も四季の方を見たが、雛子にしてはめずらしく、反応はそれだけだった。
「…何だろうね。高遠さん、めずらしい」
元気がないようにも見える。
雛子は衣装を縫いながら、心が動かないのは何故だろう、と考えていた。
丘野樹に想われていると知っても、何も感じない。
樹に魅力がないからというのではないのだ──たぶん。
自分の意識が四季の方にしか向いていないから。
だから、他に、樹以外の誰かに想われたとしても、たぶん心は動かない。
(こんな悲劇のヒロインみたいな感情、要らないんだけど)
恋がしたい。
想われる恋ではなく、想う恋。
燃焼したい。
その前に、不完全燃焼のこの恋をどうにかしなければ。
四季は音楽科の教室に入って来ると、忍たちのいる方に歩いて行こうとした──。
「──四季くん」
雛子の席の近くまで来た時、雛子は四季の腕を掴んでいた。
「高遠さん?」
四季は穏やかに雛子を見る。雛子は四季に言った。
「四季くん、左腕、見せて」
「…え?」
何の脈絡もなくそう言われて、四季は瞠目する。
雛子がじっと見つめたままなので、「どうして?」と聞き返すのも野暮のような気がした。
制服の袖を捲ると、左腕を雛子に見せた。
雛子は二の腕あたりに指滑らせ、「あった」と言った。
四季は怪訝そうに雛子の顔と、ほとんどわからなくなっている傷痕とを交互に見る。
雛子はその傷痕にキスをした。
「四季くん、ずっとわからなかったね。雛子のこと。どうして雛子が四季くんのこと好きなのかも」
「あ…」
四季は何か思い当たることがあったように雛子を見る。
雛子は今にも泣き出しそうな表情に無理に笑顔を作った。
「雛子、四季くんのこと傷つけてばっかりいるみたい。ごめんね。そんなつもり全然ないのに」


