考え込むように由貴が言った。
「ああ…だから四季と一緒に歩くと廊下に人が多いんだね」
「この間、渡り廊下の向こう側の校舎から手を振られたよ」
「えー?」
「複数の子たちで。楽しそうだった」
「楽しそうっていうか、向こうの校舎からって、ひとりひとりの顔なんかきちんと見えないから、四季に覚えてもらえないんじゃ?」
由貴には解せない。
四季は穏やかに言った。
「後で顔見て話したけど、忍がいるからごめんねって言ったよ」
「会長も、桜沢さんとつき合い始める前までは、だいぶ騒がれてたよね」
悠が言うと、由貴は困ったように答えた。
「俺、やたらに好かれてもどうしていいかわからない。俺は涼がいてくれたらいい」
「好きの一方通行は、それでいいと思っている人には幸せだけど、相手にも何かを求めたりする気持ちが派生すると、好きな方も好かれる方もつらいよね」
四季がめずらしく整然とした言葉で語った。悠は少し興味をひかれる。
「何かリアルなの?それ」
「そう思ったことはあるよ」
「四季が?ふうん…」
「何?」
「四季でもそういう気持ちになることがあるんだなと思って」
「そう。そんなことないよ」
四季は悠の言葉に別段気に障るふうでもなく、音楽科の練習に行く準備をし始めた。
「長野くんは?好きな人いない?」
「ん?…そうだね」
悠はちょっと考えて答えた。
「受験とか考えたら、動けなくなる感じはする」
悠らしい答えではある。
好きな人がいても進路によっては離れてしまうこともあるから動けないいうことか。
「…受験ね」
由貴がやや気が重いように頭をもたげた。
「会長なんかは、進路迷わないんじゃ?」
「…困らないようには生きてきたけどね。四季の方が迷いがないよ」
「僕はピアノだから」
「ね?」
「会長、迷うことなさそうなんだけど」
他のことには決断力のある由貴なのだが、自分の内面的なこととなるとそうではないようである。
由貴は悠に「とりあえず、これを終わらせよう」と言い、四季に目配せした。
「早く終わったら音楽科にも顔出す」
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