四季は思いがけず樹に『4月』のイメージと言われて、戸惑いが起こるのと同時に、忍は誰を選ぶのだろうという興味が湧いた。
確かにこの選び方で『4月』が選ばれたなら、音楽的に純粋な気がする。私的な感情を超えたところでの、選びあった音の者同士の響き合い、という意味で。
それなら雛子も忍もニュートラルな状態で歌える気がした。それぞれの良さを充分に発揮できる状況になるなら、それが最も望ましい。
目隠しをされている雛子と忍の方は、四季の歌った『4月』の歌に、心が波打っていた。
(四季くんの『4月』が生きている声──)
雛子の中ではやはり四季以外に『4月』はなかったが、樹に「四季以外にそういうイメージが出来る奴がいるとしたら、それも面白そうに思えない?」と言われ、興味を持った。
(もう一人の四季くんを、雛子が選ぶ──)
それはちょっとドキドキした。
(四季の歌った『4月』──)
忍は改めて四季の声を聴いたようで、癒されるような心持ちになっていた。
自分の好きな人はこんな歌声の持ち主だったのだ。
その歌声を誰か別の人物が表現してくれる人がいるとしたら。
(それは誰がいいのだろう)
──音楽科の男子全員が歌い終わって、雛子と忍に樹が聞いた。
「ふたりとも、誰がいいと思った?歌った番号で答えて」
「雛子は17番」
迷いなく雛子は答えた。
続いて忍も答えた。
「私も17番」
おや、と樹が笑顔になった。
「雛子と揺葉さんの意見が一致したね。理由が聴きたいところだけど…その前に他の女子の意見も聞いておこうか。17番で歌った人が良かったと思う人?」
半数以上が手を挙げて、樹が雛子と忍に17番めに歌った生徒の名前を告げた。
「歌ったのは、持田公紀。…雛子、揺葉さん、目隠し取っていいよ」
持田公紀──。
雛子と忍は、意外な人物の名前を聴かされて、持田公紀の方を見た。
音楽科の中では目立たない生徒である。楽器はチェロ。
公紀はふたりを見て特に声を発するわけでもなく、奥ゆかしくお辞儀をした。
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