四季は音楽科に向かいながら、若干の淋しさを覚えていた。
それでも白血病になる前は、普通に体育の授業も受けていたからだ。
体育の授業そのものはそんなに好きというわけではないのだが、同じ授業が受けられないというのが「淋しい」気分に繋がっている気がする。
もっとも、そんなことは言い始めたらきりのないことではあるし、仕方のないことではあるので、「自分に出来ること」で納得するしかないのだが。
音楽科の教室に近づくにつれ、歌が聴こえてきた。それも、男声だけだ。
(男子だけが歌ってるって──)
何の練習だろう。
四季は不思議に思いながら、音楽科の教室の戸を開けた。
「ああ、四季」
来るのを待っていた、という表情を浮かべて、丘野樹が四季を見た。
樹はピアノの前に座り、歌の伴奏をしていた。
「何?男声だけで何か特別な練習?」
四季が尋ねると、樹は「まだ秘密」と答えた。
「四季、ちょっと歌える?『4月』の歌」
急に言われて四季は「え?」と聞き返し、持っている楽譜からその歌の譜を探し始める。
「歌詞は覚えてないんだけど…」
「見ながらでいい。歌が聴きたいだけだから」
「僕ひとりで歌うの?」
「四季が歌ったら、みんなもひとりずつ歌う」
樹には何か意図があるらしいことを察した四季は、使わない楽譜は置き、『4月』の歌の楽譜を持って、ピアノのそばに立った。
短い前奏があり少年のような高音が四季の口から紡がれ始めた。
「おがわよ、はしれよはしれ──」
一瞬、聴いていた生徒たちはどよめく。こういう高音は無理なく歌える素養の持ち主でなければ出るものではない。
思いきりクラシック寄りの歌い方でもないから馴染みもよく、聴きやすい。
声量はそれほどないが耳に快い。曲調の軽やかさも相まって気持ちも軽くしてくれるような歌だ。
樹はその歌を最後まで聴くと「これだな」というように、にっと笑った。
「──これが文化祭でやる『4月』の月のイメージ。で、今、高遠さんと揺葉さんに目隠ししてもらってる。目隠しした状態で高遠さんと揺葉さんの耳に叶った奴が、『4月』を歌う」


