『4月』──。
丘野樹の方も舘野馨と同じように『4月』の役を誰に当てていいのか、未だ迷っていた。
歌の質で決めるなら間違いなく舘野馨なのだが、その舘野馨が「自分はこの『森は生きている』の『4月』ではない」と言っているし、樹も馨の言いたいことは何となくわかるのだ。
(…四季に歌わせるわけにもいかないし)
四季も長年ピアノを弾いてきて、輝谷音大附属にいたこともあるし、歌を歌わせても問題なく歌える。
だが、本格的に声楽をやっているわけではないし、声も太くはない。
(そうか…だからなんだな)
四季の『4月』が透明で瑞々しいイメージなのは、雰囲気と声質の影響が大きいのだ。
だから──きちんと声楽をしている舘野馨の歌なんかだと、明らかに四季とは異なる『4月』になってしまう。
朝食を抜いてきた樹は、学食でタマゴサンドを片手に、楽譜をにらんでいた。
──と、樹の耳に、はす向かいの席で、携帯で話している女子の声が飛び込んできた。
「あっ、まみー?あたしだけどー」
あたしで誰なのか通じるのか、という心の中のツッコミはさておき。
「え?…あ、お姉さんですか?ごめんなさい!声が似てたので!」
…おいおい。まみじゃないのかよ。と、さらに心の中でツッコミをし。
(──あ)
これだ、と思った。
うちのクラスには少なくとも樹の耳で聴いて、聴けないほどの歌い方をする奴はいない。
それなら。
(いちばん『四季』の雰囲気が歌える声を選んでもらったらいいわけだ)
高遠雛子と揺葉忍に。
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