時は今




 由貴も四季と一緒に食べ始めたのだが、あっという間に食べ終わってしまう。

「由貴、食べるの早い」 

「体育だったから。お腹空いて。四季はゆっくり食べてて」

「うん。これ美味しい。ありがとう」

 そういう四季の笑顔の方が嬉しい。

 と由貴は思うが、言ったことはない。

「俺、恋愛出来ないんじゃないかって気がする」

 そんな言葉になっていた。

「え?どうして?」

「だって四季といる方が楽しいし」

 四季は笑いだしてしまった。

「笑う?俺、自分が女の子とつき合うとかまったく想像出来ないんだけど」

「ふふ。…可笑しい、由貴。気になる子もいないの」

「どうだろう」

 そこで由貴は「あ」と声をあげた。

「──涼とピアノの話をした」

「すず?」

「うん。桜沢涼。『桜沢さん』って名字で呼んでいたんだけど、涼が『名前で呼んで』って言ってくれたから、涼って呼んでる」

「ふーん…」

「弾いてる曲の話になって、四季の話もしてた。『四季くんは何弾いているの?』って聞いてた」

「涼ちゃんは何弾いてるの?」

「ショパンのエチュード。事故があって、しばらくピアノ弾けなくて…最近ようやくきちんとピアノに向き合えるようになったって」

「そう」

 四季もそれを聴いてほっとした様子になった。

「良かったね」

「うん」

「涼ちゃんは気になる子には入らないの?」

「え…涼?──よくわからない」

 由貴は考え込むように頬杖をついた。

「何だか涼は、そういう意味で扱えない子のような気がする」

「そういう意味って?」

「恋愛とか、そういうものでうっかり傷つけてはいけない感じ。見てると、涼の世界を大事にしてあげたくなる」