「過去に弾いている曲かもしれなくても、弾けるようになって時間が経っている曲って、練習していないと思うように弾けなくなっていることも多いよ」
「そうなの?」
「そう」
四季らしい言葉ではある。弾けるようになったからと軽んじるのではなく、どの曲においても崩れずにある努力。
由貴は弾いている練習曲で気になるものを幾つかあげた。
四季は了承した。
「そういえば、僕の衣装、持って行ってもいい?作っている途中だったし」
「ああ…。でもあれかさばるよ」
「作っている装飾の部分だけ。なるべく早く仕上げて、ピアノに集中したい」
「まあね」
「ありがとう、由貴。途中まで縫製が丁寧に仕上げられててびっくりした」
「いや、ああいうのは好きだから、俺。ジグソーパズルじゃないけど、何か無心になれるものって心が落ち着くみたい」
「由貴くんはそういうところ、由真ちゃんに似てますよねぇ」
「そうだっけ」
そういうわけで、四季は作っていた衣装の一部を持って、由貴の家を出た。
忍に電話をかけると、忍はすぐに取ってくれた。
『ああ、四季?』
「メールありがとう。夕食、家で食べる」
『良かった。何食べたい?』
「野菜?」
『四季、野菜好きね。お肉はいいの?』
「お肉だと何が食べたいのかわからない」
『ふふ。わかった』
「何か買って来ようか?デザートみたいなもの」
ふと、四季が聞いてみた。今日忍が学校でどう過ごしていたのか気になっていた気持ちが、そういう言葉になっていた。
『あ…。いいの?』
「いいよ」
あんみつが食べたい、と忍が言った。忍は普段からあまりこういうことを言っては来ない。遠慮がちに「ううん。いいよ」と言うだけで。
素直に甘えられたのだろうか。それともそういう気分だっただけなのか。
どちらにしても、嬉しかった。
「あんみつね。わかった」
『あ…近くに無かったら、無理に探さなくてもいいからね』
忍がそうつけ加える。
話したいことが脳裏をめぐったが、どれも家でゆっくり話した方がいい気がして、それで通話を終えた。
一日休んだ分、心が幾分すっきりとしていた。
帰ったら、何から話そう。
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