時は今




 由貴はご飯をよそい始める。

「親父。温かいうちに食べよう。四季はどうする?」

「僕は家で食べる」

 そう答えると、四季の携帯が鳴った。忍からのメールである。

『元気なんだね。ご飯まだ?まだだったら四季の分も作るよ』

 四季はつい微笑んでしまう。

「ご飯まだ?作るよって忍が」

 隆史が羨ましげになる。

「四季くんまだ高校生なのに新婚のようなことに…」

「親父だって大学生で結局結婚したんじゃないか」

「そうなんですが」

 由貴は四季にひらひらと手を振った。

「じゃ明日ね。今日、四季がいなくて、うちのクラスも音楽科クラスも、なんか寂しそうだったよ」

「そうなの?」

「音楽科の練習に30分くらいつき合っていたんだけど、丘野樹も高遠雛子もバランスの取り方考えている感じだった。忍なんかは意外に自然に歌えてた」

「そう」

「あと、俺の場合、もう少しピアノの練習していないとダメだと思う。樹のピアノ聴いてから俺のピアノを聴くと、弾かなくてもいいんじゃないかというレベルだと困るし」

 その言葉に四季は聞き返す。

「由貴、ピアノの練習にどれくらい時間取れてる?」

「時間?バタバタしている時もあるから…細切れになることも多い。朝10分だけ弾いて、時間を置いて午後に30分とか…。最近まとまって一時間以上は取れたことない。やっぱり、まとまって練習した方が効果はある?」

 四季は頷いた。

「弾く時の持久力が違ってくる。短時間の練習時間だと、手もその練習時間以上には持久力はつかないから、手が早く疲れるようになってしまう気がする。早く疲れるようになってしまうと、本来弾けるものでも手が止まってしまったり、うまく弾けなかったりってことが起こる」

「ああ…それかな。あるかも」

 由貴は心当たりがあるのか、自分の手を眺める。

「同じところ…そうだね。ベートーヴェンのピアノソナタ作品49の2を練習曲として弾くことがあるんだけど、トリルとかスケールを弾いた時に、指が上手く回らない時とか重く感じる時が日によってはあって…」

「僕にはいつも同じように弾けているように聴こえるんですけどね」

 隆史が由貴の傍らで言った。